俺は今でもまともな生活できてるとはいえねぇけど、それでもこの経験は辛かったな。できれば思い出したくねぇ。
何をやったのかは言わねぇけど悪いことして逃げなくちゃならねぇことになって、いろんなところに迷惑をかけた挙句に奴らに捕まっちまった。
殺されて臓器でも売られちまうのかとか思ってたけど、向こうだってそこまでリスクの高いことやるわけじゃなかった。
捕まってどうなったかっていうと、ずっと奴隷みたいな暮らしをやらされてたってわけよ。
捕まってひとしきり殴られ蹴られしたあとに、気づいたら俺は別の小さな部屋に連れてこられていて、そこに閉じ込められたんだ。
そこは窓のない小部屋で、今も物置きとして使っているのか段ボール箱がそこらに雑に置かれてた。
部屋の隅にトイレがあって、間仕切りなんてない。いわば刑務所の部屋みたいなもんさ。
そんで部屋の中のかろうじて残ったスペースに机があって、その上にはノートパソコンが一台置かれてた。
連れてこられてしばらくたってからかな、男が二人入ってきて何やら説明を始めたよ。一人は俺を連れてきた男で、もう一人はみたことないやつだった。
二人とも中肉中背って感じだけど、まあ2対1じゃ逃げようとしても難しいよな。
俺は黙って話を聞いた。
「お前はここで仕事をしてもらう。」
説明を始めたのは俺を連れてきた方の男だった。
「仕事の内容は簡単だ。ネットから女の子の写真を適当にとってきて、それをアイコンにしてツイッターのアカウントを作り、そのアカウントでひたすら他人のツイートにいいねをしてもらう。」
男の言っている意味がわからないんで俺は尋ねた。
「ツイッターでいいねをするだって?」
「そうさ、ひたすらいいねを押せ。仮想通貨のことをつぶやいているアカウントがいい。いいねをすればそいつは興味を持ってこっちのアカウントを見てくれるかもしれないだろ。」
男は淡々と説明を続けた。
「でもフォローはダメだ。やりすぎるとすぐにアカウントが凍結される。」
俺は意味がよくわからなかったが、これから自分がやらされる仕事の内容はなんとなくわかってきた。
「そのパソコン、それ以外のことをやったらすぐわかるようになってるからバカな考えはやめて言われたことだけをやるようにな。言われたことをきちんとやれば解放してやるからよ。」
どうやら机の上のパソコンを使ってその作業をやれということのようだった。
「それだけでいいんですかい?」
「それだけといっても、楽じゃないと思うけどな。まあがんばりな。」
「でも、いいねするだけなんすよね?」
「まあ、まずは100アカウントくらいためしに作ってやってみるといい。」
「100アカウント!?」
男はとんでもない数字を口にしたので俺は思わず叫んだよ。
ツイッターで100アカウント作ってひたすらいいねするだって?聞いただけで気が狂いそうな仕事じゃないか!
「前のやつは4000アカウントくらい作ったところで気が狂ってしまったよ。そいつはいいねは100万回以上押したんじゃないか。まあお前もせいぜい頑張れよ。」
そういって男たちは部屋を出ていった。
大変なところに連れてこられたことがようやく身にしみてきた。
もうその日はパソコンを開くどころか、不安と絶望でじっとしていられなかったよ。
(つづく)
寄稿:笑ゥもなりざさん
inspired by タコ部屋から逃亡してきました